第1話 竜退治に行こう
――――クロス城下町
今日はここも賑わっていた。通行証をもらうため、クロス王との謁見を希望して各地から人が集まってくるのだ。また、洞窟や遺跡に入るための許可証を求めてやってくる冒険者、そして彼らが発見した宝などを買い取り、オークションに出したりという商いを営む者も数多いる。
街の広場に1人、外からやってきたらしい旅人が人を待っていた。黒髪を腰まで伸ばし、肌は陽に当たってないかのように白く、深い藍の瞳は長い睫毛に縁取られている。その表情に無邪気さを湛え、美人と表現するよりは可愛いに近い。無論、男が放っておくはずもない。時計を眺めながら連れを待っていると、数人の男が声をかけてきた。
「やぁ、彼氏待ってるの?」
「こんな可愛い子を待たせておくなんて最ッ低だね。」
「彼氏なんて放っておいて俺らと遊ばない?」
いかにも、軽そうな外見だ。少女――性格には男なのだが――リュウトを取り囲み、誘う。
「いや、彼氏じゃないんだけど・・・・・・」
「あれ?じゃあフリー?友達待ってるの?」
「じゃあさ、友達も一緒に俺らに付き合ってよ」
「いや、そもそも俺男だし」
本当なのだが、
「あははー面白い子だねー。面白い子は好きだよ」
「こんな可愛い子が男な分けないじゃん」
「別にとって食おうって言うわけじゃないんだからさー」
どうやら冗談として受け取られたらしい。
「いや、本当なんだけど。」
「君って嘘下手ー?」
「そうそう、誰から見ても女の子だってバレバレだよ〜」
「きっと素直なんだね〜。君って」
リュウトは自分の童顔と女顔を改めて呪った。どうやら、諦めてはくれないらしい。
「っていうかさ、そもそもお兄さん達の顔じゃあ俺には釣り合わないよ」
「ホント面白い子だね〜。でも俺これでもファンクラブあるんだぜ?」
嘘臭い。
「いや、その前に鏡見ろよ」
「鏡なら毎朝見てるさ。身なりには気をつけなきゃね」
「へ、へぇ・・・・・・それでその程度なんだ?!もしかしてその鏡歪んでる?」
「あっはっは…もしかして君田舎から出てきたばかり?」
「今はこういう服流行ってるんだよー」
「いい店紹介してあげるよ。だから俺らと遊ぼー」
男はそのままリュウトの手首を握り、無理やりにでも連れて行こうとする。
「え、ちょ、わ・・・だから俺は男だってば!!まさかそっちの趣味?!」
「あっはっは、君みたいな可愛い子だったらそれもアリだねぇ」
「え、何?!俺今貞操の危機っすか?!」
そのまま、ズルズルと引き摺られていく。
「・・・・・・あのさ、俺行くって言ったっけ?」
リュウトは大げさに溜め息を付き、言う。次の瞬間――
掴まれてる手首を思いっきり翻す。反動で男がよろけた所に、鳩尾に拳を叩き込み気絶させる。
「うをっ?!」
「げふっ?!」
残る2人も気絶させ、手をはたく。
「リュウト!ごめん、待った?」
ちょうどそのとき、連れらしい旅人が戻ってきた。濃茶の髪に紺のバンダナに黒服、暗い紫のマントといった、ダークな色合いでまとめている青年。腰には2本の剣。顔はリュウトと同じく童顔で女顔気味だが、その長身のおかげで間違われることはないだろう。
「また女の子って間違えられてたの・・・・・・?」
「そーだよー・・・アシュトンが遅いから」
「というか僕のせい?」
青年の名はアシュトン・アンカース。砂漠で死に掛けてるリュウトを助けて以来、2人で旅をしている。
「それより、手掛かりは見つかったの?探し人の」
「全然ー・・・・・・俺みたいに耳が異様に長い人ってあまりいないと思うんだけど・・・それでも見つからないんだよねー・・・この大陸にはいないか」
彼が言うとおり、リュウトの耳は物語などに出てくる妖精のように尖っていて長い。
「そっか・・・見つかるといいね、お姉さん」
「それはそうと、いい情報は見つかっちゃいました」
打って変わって上機嫌に笑顔を見せる。このとき、アシュトンには一筋の嫌な予感が走った。
―――リュウトがこの笑みを浮かべるとき、大体はロクなことがないのだ。
「な、何・・・その情報って・・・・・・・?」
たじろぎながら聞き返す。
「今サルバの坑道で、なんか双頭竜が現れたらしいんだよね」
「へぇ・・・それで?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「で、掃討してくれる冒険者を探してるみたいなんだよね。報酬は10000フォルだって」
そう、リュウトはチラシをアシュトンに突きつける。
「今俺ら金に困ってんじゃん?10000fももらえるんだよ?!というわけで・・・れっつ 竜退治!!」
「確かに金欠だけどさぁ・・・・・・」
アシュトンは気が乗らないようで、深く溜め息をついた。
「だいじょーぶだいじょーぶ。アシュトンなら大丈夫だって。うん、俺が言うんだから間違い無し」
「僕ならって・・・・・・リュウトは?」
リュウトの動きが止まる。
「いや、俺はムリだって。だって向こうは10m近くあるみたいだし・・・ホラ、俺の武器ってナイフじゃん?間合いに飛び込めないって。それに・・・・・・」
リュウトはあっけらかんと笑い、言い訳を並べる。
「で、僕1人で闘えって?!冗談じゃないよッ?!」
「で、でもホラ!今金ないじゃん?旅続けられるのかなぁ〜?」
「金ないのは確かだけど、もっと楽な依頼はなかったの?」
「やっぱ皆1人で双頭竜に向かう勇気はないらしくてね〜・・・他の依頼全部盗られてた」
「そ、そんな・・・・・・」
「と・い・う・わ・け・で・・・・・・・・・れっつごぉとぅぅサルバ!!」
というわけで、アシュトンはリュウトに引きずられながらも、サルバに向かうことになった。
「桃太郎さん 桃太郎さん お腰につけた 手榴弾(きびだんご)〜♪ひとつ私にくださいな〜♪」
「・・・・・・・・・リュウト、そこって手榴弾(きびだんご)だっけ?」
サルバに向かう途、陽気にリュウトが歌い始め、アシュトンが空かさず突っ込む。
「殺りましょう 殺りましょう これから鬼の征伐に ついていくならあげましょう〜♪」
「・・・・・・なんか違う気が」
「そりゃ進め そりゃ進め 一度に攻めて 攻めやぶり 潰してしまえ鬼が島〜♪おもしろい おもしろい 残らず鬼を 攻め伏せて 分捕物を えんやらや〜♪」
「なんかもう違う歌になってるような・・・」
後半部分をとくに楽しそうに歌うリュウトを見て、肩をすくめる。
「何言ってんだよアシュトン!!前半の手榴弾(きびだんご)はともかく、後半は本当なんだよ?!ト○ビアの●で見たもん!!」
リュウトはやけに力説し、桃太郎の過激さについて(無駄に)語り始めた。
しかも今回は鬼退治ではなく竜退治なのだが。
―――サルバ
「んじゃ俺は外で待ってるよ」
坑道の入り口まで行くと、リュウトは立ち止まった。
「分かったよ。とりあえず宿は取っておいてくれないかな?」
「お、帰ってくる気満々じゃん」
「死にに行けって・・・?!」
「冗談冗談。宿は取っとくよ」
アシュトンを送り出して小1時間、宿を取り、町をブラブラしているが、足は自然と坑道の入り口へ向かった。
――さすがに双頭竜と1人で闘れってのはキツイか・・・・・・
リュウトといえども、やはり相棒の身が心配らしい。腰に下げてある刃渡り30cmほどのナイフと袖口に隠した小型のナイフ、ポケットの中の手榴弾を確認すると下ろしていた髪を後で束ね、坑道の中へ飛び込んだ。
「うわ・・・入り組んでるなぁ・・・・・・」
坑道へ入り込んで数分、リュウトは既に迷いかけていた。決して方向音痴ではないのだが、道が何本にも分かれていて、これではアシュトンがどの道を辿ったのかもわからない。しかも、アシュトンの姿を探すにも薄暗すぎて、暗い色調の服を着込んだ彼を見つけるには困難だ。
「あーもう・・・アシュトンの奴もっと明るい色着ろよな・・・・・・!」
そこにはいないアシュトンに八つ当たりしながら、右上から襲ってきた蝙蝠型の魔物をナイフで斬り裂く。襲い掛かってきたのはそれだけではなかった。
「ちッ・・・・・・囲まれたか・・・・・・!」
アシュトンの姿を探すのに気を取られすぎたらしい。気づけば目の前にも背後にも無数の蝙蝠。
「く・・・何とかできないことはないけど・・・・・・こんなトコで”覚醒”したら・・・・・・」
リュウトは左腕を盾にして蝙蝠の牙と爪を防ぎながら1匹ずつ確実に片付けるが、敵が多すぎた。
――このままじゃあ・・・・・・
思考をめぐらせていた隙に、1匹の蝙蝠が捨て身に飛び込んできた。
「あ・・・・・・」
一瞬の出来事に避けることも防ぐこともできず、そのまま、崩れ落ちた。
右肩から焼けつくような激痛が走り、意識に霞がかかっていく。それでも意識を現実に留め顔を上げると、無数の魔物がいっせいに攻撃を仕掛けようとしていた。
ナイフは手から離れ、しかも利き腕は感覚がなく、動かすことができない。為す術もなく、睨みつけるリュウトの眸は深い藍から鮮やかな青へと変貌りはじめていた。空気がざわめき、重かった身体が浮遊感を覚える。
魔物も、リュウトの異変を感じたのか、攻撃態勢から警戒態勢に入っていた。
――もう、少し・・・だ・・・・・・
リュウトが完全に変貌を遂げようとした次の瞬間、
「レイ!!」
眩しい閃光が走り、一瞬にして蝙蝠を灼き払った。
紋章術だ。誰かが駆けつけてきたらしい。
「ちょっと、大丈夫ですの?!」
「君、しっかりするんだ!!」
淡い水色の髪の女性と深い青の髪で長い耳が印象的な少女、そして金髪に赤いバンダナ、見慣れない服装の少年が視界に飛び込んできた。
「あ・・・貴方たちは?」
そのときのリュウトの眸は既に戻っていた。
「待ってて、今治すから・・・・・・」
青い髪の少女が呪文を唱えると、淡い光が傷口を包み、次の瞬間には傷が塞がっていた。
「・・・・・・!この能力・・・・・・」
「レナには怪我を治す不思議な能力があるんですの」
「ええ、もう大丈夫よ。私はレナ、今紋章術を唱えたのがセリーヌ、こっちはクロードよ」
レナという少女が自己紹介をする。
「そう・・・・・・それで、お姉さん達は何でこんなところに?」
リュウトは立ち上がり、砂と泥を払い落とす。
「僕たちはさっき竜を退治しに言った剣士を手伝おうと思って此処に来たんだ。それより、君は1人で此処に何しに?」
「ああ・・・そのさっき竜退治に行った剣士って僕の連れなんだ。流石に1人じゃきついかと思って助けに着たんだけど・・・・・・」
「それで1人でこんな奥まで来たの?!」
「1人で来るなんて危険すぎますわ!」
レナとセリーヌから驚いたような、呆れたような声が上がる。
「目的は同じなんだし、この先一緒に行動していいかな?これでもある程度は戦えるし足手まといにはならないからさ」
「構わないよ。それより、急ごう!」
双頭竜の吐いた焔と冷気が岩壁を砕く。
「あ・・・危な〜・・・・・・」
紙一重で避けたアシュトンは背中に冷や汗が伝うのを感じる。柄を握りなおすと、地を蹴り再び斬りかかる。しかし、赤竜に牙で受け止められ、その隙に
青竜が頭をもたげ、冷気を吐く。
「くッ・・・・・」
すんでのところで空いた剣で受け止めるが弾かれる。叩きつけられる前に壁を蹴り、剣を突き立てるが今度は2頭分のブレスを受け止めきれず、地面に叩きつけられた。
「アシュトン!!」
後方から聞き知った声が届き、飛び退り肩越しに振り返る。
やはり其処にはリュウトの姿があった。彼以外にも3人の男女が駆けつけている。
「リュウト?!何しに・・・・・・!危ないから下がってるんだ!!」
確かに、この坑道は狭く、複数で一気に戦えるスペースはない。紋章術を放てば見方にあたる危険性もあるし、肉弾戦で行けば、逃げ場がなくなる。
「・・・と、とりあえず応援だけでも・・・・・・」
クロードが呟く。のちに、これがアシュトンの命取りになってしまった。
「応援ならまっかせて!!」
そう、リュウトが意気揚々と取り出したものは日の丸ハチマキにメガホン、そして大太鼓。
「り、リュウト?!」
「そ、そんなものどこから・・・・・・」
「ひ、日の丸・・・・・・?!」
「フレー!フレ−!ア・シュ・トン!!」
リュウトがメガホンで叫びながら太鼓をやかましく打ち鳴らす。
「もっと腰を低く!」
クロードらもそれに乗じて応援に加わる。
「あーもう!!気が散るからさ、もう少し静かにしてくれない?!」
後方からの騒音に耐え切れなくなったらしく、アシュトンは思わず身体後と振り返ってしまった。
「ご・・・ごめん」
思わず、謝る。
「ちょ・・・アシュトン!後・・・・・・!!」
リュウトが悲鳴に近い叫びを発する。
「・・・え・・・・・・?!」
アシュトンが振り返った、その先に双頭竜。次の瞬間、閃光が周辺を真白く染めた。
++後書++
アシュトンのとり憑かれシーン、もうちょっと何かネタあるかな〜と思ったらあまり浮かびませんでした。
というかキャラほとんど忘れてます・・・・・・かなり似非でスミマセン